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改正区分所有法解説②:出席者多数決制度導入の意味

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  2026年4月1日に施行予定の改正区分所有法の最大の目的は管理不全マンション対への対策です。管理不全に陥ったマンションでは、マンション管理に非協力的な区分所有者や、外部居住区分所有者の増加、そして所有者不明住戸の増加により、区分所有者の合意形成が困難となり、それが管理改善の大きな障壁となっていました。 こうした課題を解消し、マンション管理の意思決定を円滑に進めるため、新たな制度として「出席者多数決制度」が導入されます。 この制度は、主に管理運営に関する議案の決定に適用 されることになりますが、従来の合意形成が困難になっていた現状を打開するための重要な改正と言えるでしょう。 1.従来の合意形成の課題 現行法では、マンションの重要な決議(規約変更、建て替え等)には、 区分所有者全体を母数とした多数決 が必要でした。しかし、以下のような問題がありました: 所在不明の所有者がいると、賛成率が足りず決議が成立しない 出席しない所有者も反対者と同様に扱われる 実質的に総会決議不能で管理不全に陥るマンションが増加 2.出席者多数決制度とは? 改正法では、 集会に出席した区分所有者(書面・代理含む)を母数とする多数決 で決議が可能となる制度が導入されます。つまり、欠席者や所在不明者を母数から除外することで、実際に意思表示をした所有者の意見を反映しやすくなります。 例:従来 VS 改正後の決議成立要件(3/4決議要件の場合) 状況 従来の制度 出席者多数決制度 所有者数:100人、出席者:60人、賛成者:45人 賛成率45% → 不成立 出席者中の賛成率75% → 成立 この制度により、 実質的に管理に関与している所有者の意思 が尊重されるようになります。 3.制度導入の背景と意義 高経年マンションの増加 :築40年以上のマンションが急増し、修繕や建て替えの必要性が高まっています 所有者不明問題 :相続未登記や連絡不能な所有者が増え、意思決定が停滞 災害対応の遅れ :被災マンションの再建が進まない原因の一つが合意形成の困難さ 出席者多数決制度は、こうした課題に対し、 柔軟かつ現実的な意思決定の仕組み を提供するものです。 4.注意点と今後の対応 出席者多数決制度は以下の決議に採用されます 普通決議、規約改正、共用部分の変更、復旧決議、法人の設立、法人による区分所有権取得、...

改正区分所有法解説①区分所有者の責任の明確化

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  2026年4月1日に施行が予定されている「改正区分所有法」は、老朽化が進む管理不全マンション問題を解消し、マンションの長寿命化や再生を推進することを目的としています。この改正の重要な柱の一つが、「 区分所有者の責任の明確化 」です。 現行の区分所有法では、区分所有者は、団体との関係では、権利の主体であって、義務の主体ではありませんでした。これが組合員のマンション管理に対する無関心の一因となり、非協力的な組合員の存在に悩む管理組合の大きな問題となっていました。 今回のブログでは、改正区分所有法でどのように区分所有者の義務が具体化されたのか、そのポイントを解説します。   1.新設された「区分所有者の責務」 (第五条の二) 改正法では、区分所有者の基本的な「責務」について新たな条文が設けられました。 ・第五条の二: 「区分所有者は、第三条に規定する団体の構成員として、建物並びにその敷地及び附属施設…の管理が適正かつ円滑に行われるよう、相互に協力しなければならない」と明確に定められています。 これは、マンションが個人の専有部分の集まりだけでなく、全体として一体の共同体であり、その維持管理には全区分所有者の相互協力が不可欠であるという基本的な考え方を改めて強調したものです。マンション管理の根幹をなす「協力義務」が、法律上明確に位置づけられたことになります。 2.変更された「区分所有者の権利義務等」 (第六条2) 共用部分だけでなく、他者の専有部分との関係においても、区分所有者の権利と義務がより具体的に示されました。 • 第六条2: 「区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分若しくは自己の所有に属しない共用部分を使用し、又は自らこれらを保存することを請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない」と変更されました。 この変更は、例えば、自身の住戸の配管工事のために、他の住戸の壁や天井を一時的に使用する必要がある場合など、マンション全体の維持管理や改良を円滑に進めるための権利を認めつつ、それによって他者に生じた損害については、原因者が償金を支払う義務があることを明確にしています 。これは、**標準管理規約の23条(必要箇所への...